日本の「民主主義」をどう立て直すのか

山中燁子氏(ケンブリッジ大学客員教授)

工藤:言論NPOの工藤です。16日に衆議院が解散されることが決まり、今日(2012年11月14日)は日本の政局が大きく動き始めた日となりました。そこで、ケンブリッジ大学客員教授で、僕たちの日本の民主主義のための議論にいろいろな形で参加いただいている山中あき子先生と日本の政治についてお話ができないかということで、急遽言論スタジオを開設することにしました。

 さて解散ということですが、民主主義というのは有権者が主役ですから、この選挙をきちんと考えなければいけない。山中さんはこの日本の政治が大きく変わろうとしている状況をどう思われていますか。

 

熟していない日本の民主主義

山中:海外にいると感じるのですが、日本は外交において本当に信用を失っているところですから、もう一度「日本というのはどういう国なのか」という国の姿勢、アイデンティティを示すということが必要なので、選挙をするということ自体はとてもいいことだと思います。民主主義ですから、国民は投票することが責務でもあるわけですよね、権利であると同時に。だから、投票する側も責任を果たさなければならないので、誰を選ぶか、どういう基準で選ぶか、すごく大変なのですけれど、工藤さんもよくご存知のように、民主主義の一応のお手本の国であるイギリスでも腐敗選挙の時代もありましたし、やはり今の形になるまでに結構、時間がかかったのですね。そういうふうに考えると、日本の民主主義はフランスのように自分たちで勝ち取ったものではなく、戦争に負けて与えられた制度として60数年間やってきたけれど、やはりまだ道半ばで、本当に民主主義をきちんと根付いた形に出来ていないという気がするのです。

工藤:本当にそうですよね。言論NPOは有権者が政治を、そして選挙を自分できちんと考えて臨むことができるためにマニフェスト評価などをやってきました。ただ、言論NPOも最近、非常に悩んでいまして。というのは、政党政治がきちんと機能していれば・・・ガバナンス上、十分に政策をまとめて、選挙の時は有権者にきちんと代表を選んでもらうという、そういう使命でもって政策を出してもらえればいいのですが、政党政治そのものが体をなしていないとなると、選挙に向かう際に有権者が困ります。

山中:困ると思いますね。あと1ヶ月くらいで投票しないといけないのですが、大きな政党がマニフェストを今、作っているという状況ですよね。

 

時間をかけたマニフェスト作りを

工藤:そうなのです。TPP(環太平洋経済連携協定)をやると言ったり反対だと言ったり。

山中:イギリスではマニフェストを作るのに、1年とか1年半をかけて党内をまとめながら作っていますよね。そうすると、党内の人たちは、自分たちはこういう形でやるのだ、と。そして、ポスターやパンフレットも個々の候補者が作るのではなくて、党の物が一体となって出てきているものですから、日本のように党も出てくるけれど、個人も出てきて、それこそ選挙になったらバーっと配って...という状況ではないので。やっぱり、そういう意味で今おっしゃった政党政治・・・つまり政党が自分たちはどうするのか、というマニフェストを、時間をかけてきちんと党内の人たちを納得させながら作り上げて。しかも、選挙も、派閥の選挙などではなくて、党としてどのようにその選挙を仕切っていくか。これが全部一貫している。日本がこういう形に行くまではちょっと時間がかかるかな、と思っています。

工藤:そうですね。僕もすごく反省というか...選挙を迎える前にその選挙のあり方も含めて、もっと有権者が自分たちの代表を選べるように。また、政党も代表者を選んでもらうための候補者の提起の仕方とか、色々な政策の提起とかに十分な時間をかけないと無責任ですよね。

山中:そうなのですね。党の総裁・代表の任期が2年とか3年。そして、衆議院の任期が4年。これも不思議な話で、やはり日本は変わりすぎてしまう。ぎりぎり4年はやらないにしても、一人の党首で選挙を戦い、勝ったら4年の任期で、その間はマニフェストをきちんと責任をもってやってもらう。それを選ぶという形にならないといけないので、政党自体のあり方と有権者の意識と、両方が一歩前進できれば、そこから次に向かっていける。そういう意味で、私が国会に入った頃にイギリスのウィリアムスというサッチャーさんと人気を争っていた人が「あき子、国会議員になったの? それは、日本に本当の民主主義を根付かせるためなのでしょう?」という一言を言われたのです。それはつまり、日本には民主主義が根付いていないと思っている国はたくさんある。外から見ると日本はまだ過渡期で、首相、内閣は変わるし、選挙の1ヶ月前になってもまだマニフェストはできていない。このような状況では、どうやって国民は誰を選んだらいいのか、というのがとても大変で。日本の国民はとても賢いので、「もうこんなやり方では駄目だ」と思いつつある・・・では、どういう形ならいいのか、それが見えてこないので、どこに投票したらいいのか、迷いが見えますよね、数字を見ても。

工藤:きちんとした民主主義に・・・時間はかかるかもしれないですが、少なくとも今回の選挙はそのためのステップにしないといけないので、言論NPOもそのために色々な準備を始めているのですが、山中さん、もう選挙は始まりますので、政党側にこの選挙を迎えるにあたって、「こういうことを考えて欲しい」という要望はありますか。

 

日本の民主主義の危機をチャンスに

山中:NPOとしては・・・それぞれの政党が今まで考えてきたこと、やってきたこと、議論してきたことの延長線上で、きちんと党として出せるものを出して欲しい、ということですよね。書こうと思えばいくらでも書けるわけですけれど。それと同時に、1ヶ月後の選挙ではちょっと間に合わないので、ちょうど来年の臨時国会で国会議員の定数削減などそういう問題も話し合うわけですから、その時に、定数削減をする、しないとかの議論だけではなく、選挙のあり方、それから政党のあり方というものもきちんと議論して、制度的にも意識的にも高めていってもらいたい。ですから、それらのあり方についてもマニフェストに入れて欲しいですね。

工藤:つまり、民主主義というものを強くしていくために、政党側が今、考えていることを出して欲しい、と。そうしないと、僕たちは民主主義に対して、それをどう活用すればいいのか、ということが見えなくなってきているという状況がありますよね。

山中:自民党も一つの時代が終わって、民主主義の次のステップに入ってきているということで、新しい発想で、政党もどのように変わっていくべきか・・・そういう議論になりつつあると思うのですけれどね。そういうことも含めて、政党も変わるのですよ、と。それから、選挙制度も変えていきたい、定数を削減したい。そういうことを総合的に議論するという方向性は・・・数値目標なんて出さなくてもいいですから、マニフェストの方向性として姿勢が見えるものを示して欲しいですね。イギリスでも細かい数字...付加価値税が何%というような数字はマニフェストには出ないのです。ただ、その政党の姿勢の根本を問うわけですけれど、やはり、今は日本の民主主義の危機だと思いますので、この危機をチャンスに変えて乗り越えていくという日本のたくましさを見せて欲しいと思います。

工藤:わかりました。この議論はこれからも続けていくので・・・山中さんはまた海外に行ってしまうのですが、また戻ってきていただいて、これから1ヶ月間が勝負だと思ってやりますので、ご協力ください。

山中:私が海外をまわっているのは日本のために働きたいからですし、日本の顔を見てもらいたいのです。言論NPOには期待しておりますので、また是非声をかけていただきたいと思います。

工藤:ありがとうございます。

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